詩・生き残る…… 『80年代へ・街頭の断想-4』 11月1日~82年1月末日 <1981年(昭56)>
 詩・生き残る…… 『80年代へ・街頭の断想-4』 11月1日~82年1月末日

 不知火のほとりの漁家で、まっ赤な旬のいい蛸をすすめられる。指さし「アン沖の方で獲ったっじゃで水銀は少なか。噛まんな」その確かさに誘われひとつ皿の「毒だこ」に箸を重ねる。臓はぷちんとして煮汁がうまい。海の風景が毒への思惑を倒す。老人は笑む。
 街そのガラス質の風景に帰り、不意に原爆シェルターを競いもとめるロンドン市民の話を思いだす。それは有事、他人を拒む定員厳守の金属壕であろう。弱者は地表で死ぬ。そして強者は非汚染の穀物と肉を「健康食品」として確保しさらに生き残るであろう。かかる残留地表人と食を分つ光景は想い到れない。
 核一過、生き残って、たとえばここをそぞろ歩きしはじめた人の群を想うのは、死である。ならば 「生き残る心」をここに埋め去り、老人と海辺でせめていい蛸をたべつづける。