川本久のたて糸とよこ糸 <1984年(昭59)>
 川本久のたて糸とよこ糸 

 川本久氏と知りあったのは1966年頃、そのけなげなつれあい(絵の仲間でもあった)道子さんの経営する小さなスナックでであった。才気煥発で話題の豊かな彼女の店は、その気やすさから、多くの映画人や写真家、新聞記者が集まっていた。新宿の新開地であることも深夜まで飲みたい連中には都合がよかった。安くもあった。
 店の看板頃に氏は道子さんをむかえに店に来る。昼は児童画を指導し、夜はエッチングに精進しているらしかった。手の指が黒く染っていることもあった。きわめて親しい人としか会話を交わさなかったが、埋蔵量の深い寸言で私の膝を叩かせたことがしばしばだった。だが、言い方が調子にのることは決してなかった。そんな人柄が好きだった。