映画『海盗り』の現場から 「むつ」問題でゆれる浜関根の人びと 策略見すかす漁民のクールさに心強さが 「社会新報」 2月17日号 社会党中央本部機関紙局
とうとう尻尾を
昨年5月より撮り始めた映画のラストシーンをとるべく、真冬の浜関根に来たとたんに、原子力船「むつ」をめぐる動きは急展開しはじめた。記録者としては強運と言える。とくに1月18日の自民党科学技術部会の”廃船”決定から25日の”新港建設、廃船論保留”までの1週間は”原子力船開発とその研究”の国策が、実はどこに照準を当てているかをはっきり地元の人たちに見せることになった。
「新母港としてだけではなく、将来、原子力のメッカとなる下北半島に、ウラン濃縮・再処理工場、廃棄物処理場を一セットにしてはりつけ、そのために原子力専用港にする」という構想がそれである。
「とうとう尻尾を出しましたなあ」という慎重派で漁業権放棄に反対票を投じた一漁民はいう。
私たちは映画を一関根浜に限るつもりでいたが、この10か月の現地体験から、下北半島の軍事基地強化と連動した原子力半島化へとそのストーリーをひろげざるを得なかった。
「むつごときポンコツ船のためになぜ一千億の巨費を投じるのか。という疑問を突き詰めれば自民党にひそかにかくされていた核サイクルの基地母港化という推論にたどりつくほかなかったからである。それはしかし固くガードされていた。12月の総選挙で来青した中曽根首相が「下北を原子力のメッカに」とぶちあげたが、関根にはふれなかった。だがその本音がこの1週間の騒動とその収拾策のなかでポロリと出たのである。
甘い人間ばかり
それは、最悪の帰結として漁民は受け取っている。
「船なら出ていけ!いえるが、陸につくられちゃ半永久的に居すわられる」とその漁民は言う。「むつ」以外に危険性のある諸施設が上陸してくることを懸念しつづけてきたのだ。
これには「むつ」賛成派の漁民も反対に立たざると得ない。小さい漁協をワンマン経営で母港化に引きずってきた西口組合長さえもテレビカメラの前で口惜し泣きさせたほどだ。
「西口さんも口惜しかろう。考えてみれば、彼も被害者の一人だ」と人の好い地元の人はそのテレビ特報(青森県のみ)を語り合った。ある種の”油断”が足元からずりのぼってくる。またしてもここで被害感をなめあうのであろうか。
原子力船母港化の工事着手をさしとめるため、たった一人の原告となっても裁判に起こった底建網漁民・松橋幸四郎さんが「あるお役人が「関根は自然的条件悪いが、”社会的”条件はきわめてやりやすい」といったそうだが、人のいい人間ばかりという意味ではその通りだ。組合長が泣いて気がすむのならおれはもっと泣きたい。やはり、漁業者としての組合長は間違った。これは問い続ける」ときっぱりいうのが救いだった。
現地にいてもよそものの取材者である私には失敗談が数知れない。そのひとつが次の例だ。
言い分は通らぬ
自民党科学技術部会の「廃船、新母港建設とりやめ」の報道された翌朝、私たちは、大謀網漁民の一人一人に感想を求めた。私にもそれが”結論”のように思えたからだ。ところが返ってきたことばは冷え冷えとしたものだった。私の声の方が上ずっていたのに……。
「廃船?あったりまえだべ。あったりまえのことがあったりあえになったというだけだべ。」と若い漁民は荒れる海を背にしていった。こんな風波のつよいところで実験ができるわけがないという実感あってのこたえである。
年配の漁民は「しかし海をカネにかえて、売ったということは変えられねえ。もう受け取って分けるばかりになってるからな。売った海である以上代わりに何をもってこられても、言い分は通らねえ」(その翌日報じられたのが核燃料サイクル立地とその専用港プランであったのだ)
その夜、私は苦い思いで焼酎をのんでいた。そこに若いむつ市の活動家が「祝杯をあげたい気持ちだ」と相好をくずして訪ねてきた。私は自分のその朝のハズンだ気分を恨んで自責の念にさいなまれていただけにからんだ。
「自民党が負けこんだので、漁民の闘いといったものが勝ったのではない。もし廃船となれば、かつてむつ湾漁民と住民の闘いが、今日なお残り火として自民党をおびやかしつづけていたことだ。その闘いは”不滅”だが、いま闘って勝ったのではない」とくだをまいた。その晩、さらに”失言”に気を病んだものだ。
利権誘う”宣言”
本州最北端の大間町に新型転換炉が建ち、東通りに四基の原発が立地しようとしている。新型転換炉はプルトニウムの混ぜだきだけに、再処理工場と至近の距離である必然性があり、それらの廃棄物処理場がこれまたワン・セットであるべきである。私が立案者でも、そうするであろう。その立地が六ヶ所村であれ、東通町であれ、すでに海や陸を売って10年以上たったところである。
ニュースの”現役”であるいまの関根浜もすでに海を安く売り、後背地を八割がた原船事業団の手中に落ちた。
「再処理工場だけは作らせない!」と県は声だかに叫び出しているが、六ヶ所村をほろぼしつくした青森県当局のこの15年をみるとき、それは次に中央にせびり、利権を誘うための宣言と思えてならない。それを見透かせる漁民が、実にこの1週間に生まれたことを、実は県もしらないでいる。私には関根の漁民のクールさこそ、いま一番心づよく思えてならない。(1984.1.30)
▽映画「海盗りー下北半島浜関根」は本年4月頃、完成予定。