味読熟読『矛盾論』毛沢東著 『朝日新聞』 6月8日付 朝日新聞社 <1987年(昭62)>
 味読熟読『矛盾論』毛沢東著 「朝日新聞」 6月8日付 朝日新聞社 

 敗戦の年に旧制中学を卒業した私は軍国教育から乱世にほうり出され無思想もいいところ。哲学に飢えてマルクス主義文献をむさぼり読んだが、訳文や用語がむつかしくて一知半解、それより実践ーと四捨五入して運動三昧(ざんまい)、あげくの果てに”別荘”入りしたのが昭和二十七年だった。頭の整理をする格好の時だ。
 時間はたっぷり。差し入れの毛沢東の『矛盾論』だが、何と平易でーモラスだったことか。「卵は温めるとひよこになるが、石ころは温めてもひよこにはならない。両者の根拠がちがうからだ」といった主旨の比喩(ひゆ)に、ほかの翻訳ものにない親しみを覚えた。矛盾だらけと悩む身に、この一冊はまさに青春の指南書、人生論ノート、恋の”矛盾”にも気の晴れたものである。
 映像作家
 (松村一人・竹内実訳、岩波文庫『実践論・矛盾論』)