一本の銀杏の匂い 杉並区小誌『いずみ』 第12号 1月5日号 方南・和泉地域集会施設運営協議会 <1992年(平4)>
 一本の銀杏の匂い 杉並区小誌『いずみ』 第12号 1月5日号 方南・和泉地域集会施設運営協議会 

 永福小学校の通学路に面した私の家に、道路を覆うばかりに枝を繁らせた銀杏がある。秋、金色の葉とともに実がつく。それが雨かぜの日などには足の踏み場もないほど路上に落ちる。車がプチップチッと実をつぶす。そして、銀杏特有の匂いが流れる。毎日通学する子供たちが「くさいなあ」「触るとかぶれるぞ」などと言い合って足早やに通る。そんな子供の目を意識しながら、集めた銀杏の実を剥く。物珍しそうに見ている子供の掌にひと握りの実を持たせて帰す。彼の目は輝く。
 まだ樹齢わずか五十年だ。われわれは「子孫の受け継ぐべき自然を、現在(いま)預かっている」に過ぎない…この銀杏も「故郷」の匂いとなって残るかも…と思ったりする。