この人にアンコール 『朝日新聞』 6月1日付 朝日新聞社 <1996年(平8)>
 この人にアンコール 『朝日新聞』 6月1日付 朝日新聞社

 9時間半の長編、クロード・ランズマン氏のユダヤ人ホロコーストの証言記録映画『ショアー』と、これまた計11作の“水俣映画”の二本だて、二週連続の上映会を赤坂の国際フォーラムでやってます(6,2まで)。
 そのあい間に、氏に約束した水俣に行きまして。生き残った人の証言に加えて、風景を重視した氏にとって、水俣はいかがだったか。「この美しい海に、あの悲劇を思わせるものは残っていないですね」とポツリ。
 氏が『ショアー』の映画化に着手した時、すでに各地の絶滅収容所は破壊し尽くされ、ただの森になっていた。で、今度知ったのですが、チッソの工場の水銀を使ったアセトアルデヒド工程七基は全部解体されていました。後学のためにせめて一基は保存してほしかったですね。
 「水俣病犠牲者の遺影を集め、秋の水俣・東京展では展示します」というと、氏は「死んだユダヤ人の名前だけを記した本が作られています」と意表をつく。死者の記憶の方法はつきつめていえば、名前なんですね。