「日活映画」弾圧に対する抗議行動及び当局見解-五人の〈ニュー・ドキュメンタリー〉派監督の日活ロマン・ポルノ映画弾圧への抗議行動報告「キネマ旬報」4月上旬春の特別号キネマ旬報社
経過
いわゆる”日活ポルノ映画” への、警視庁保安第一課による摘発問題について、二月一四日、黒木和雄、土本典昭、小川紳介、岩佐寿弥、東陽一の五人が討論した。討論は多岐に亘ったが、最終的に、ほぼ次のようを点に意見の一致をみた。
一、根源的な意味では、事柄が性に関わるものであれ政治に関わるものであれ、人間の表現行為、表現を受けとる行為に対して、官憲が介入することは絶対に容認できない。
二、日本の官憲は、すでに時代遅れとなっている刑法第一七五条〝ワイセツ物陳列罪″の恣意的な適用によって映画表現に介入した。このことは、具体的には、性的な映像表現の自由とその享受の自由への、公然たる脅迫、弾圧であることはいうまでもないが、またより本質的には、官憲が、刑法第一七五条を今の所、表現行為への介入の唯一の合法的なとばくちとしつつ、表現、思想の全体へ侵入しようとする姿勢を示している。
三、これに対する抗議行動は、今の所(二月一四日現在)、日本映画ペンクラブのものだけである。(その後、日本映画監督協会が抗議を申入れた。)しかしこうした場合、一般に起りうる抗議行動の直接的有効性への疑問を、行為そのものに優先させることこそ、官憲の目論むところの、自己抑圧、自己規制の制度を自ら確立してしまうことではないか。
四、こうした闘いは、もとより代理不可能な問題であり、我々は、誰かのために抗議するのではない以上、とりあえずはここに集ったものの討論のみを尊重し、抗議書に多くの人の名を連ねるなどという形態は必要としない。
以上に基いて土本典昭が文章を起草し、二月一八日、上記の五名に大津幸四郎を加えて更に討論を重ね、次のように抗議書を作成、二月一九日、連名者五人が警視庁保安第一課にこれを提出、抗議した。
抗議者の内容ならびに口頭での抗議の内容は以下の通りである。
(東 陽一・記)
一九七二年一月二八日、警視庁保安一課は、上映中の映画フイルム(内。日活映画二本、プリマ企画映画一本)を都内数ヶ所で押収し、相ついで映写技師、映画館支配人及びその製作関係者等を、刑法一七五条ワイセツ物陳列罪の容疑のもとに事情聴取と称し、実質的に自白を強要せんとしている。
私達は、この事件を次の点でただに言論・表現の自由に対する弾圧としてのみではなく、人間の存在、人間の感覚、人間の感性そのものへの官憲ファシズムの権力的攻撃と受けとり、これに対し異議申立て、きびしく糾弾するものである。
一、そもそも表現におけるワイセツか否かの基準は、その個々人の主観として主体的にきめられる性質のものであり、極めてあいまいなものである。今日、世界的にある種の性表現を刑法によって規制し処罪する事に対し、大きな疑問が投げかけられている。その世界的潮流にもかかわらず、今回の事件はそれに抗する愚挙であることは世論のみとめるところである。
二、今回の事件に特記すべきは、右三本の映画についての個々の検証も、つまびらかにせず、それがいわゆるポルノ映画であるとして、その一定の傾向の作品を一把ひとからげに犯罪作品と断定したことである。更に官憲は、今回の弾圧に際し、その愚劣で勝手な心証を根拠に、まずもってワイセツ罪の予断をたて、劇場労働者の自白を手はじめに、製作者、演出家、技術者、演技者をはじめ、それにかかわった映画スタッフ全員に至るまで一網打尽に取調べ”自白”をあつめ、そして予定通りの「ワイセツ罪」を組立てようとしている。そしてその全過程で表現者ひとりひとりの自由を脅やかし、行動を束縛し、生活に脅威を与え、その創造性を恐怖の中でつみとり、映画労働のもつスタッフ間のつながりを破壊し、ついには個人個人に自己規制を、自らの手で自らに課するに至る効果を目的としている。
三、そのためすでに何らかの形での自己規制機関である映倫をすら犯罪者の共同正犯に仕立て上げ、映画に関する唯一審査の実権は、警視庁保安一課にあることを、強権をもって”認めよ”とわめいているのだ。
時を同じくし、警視庁は新聞、雑誌、テレビ等にも諸反動政策を行っている。ブラウン管はすでに犯罪人の密告板となりさがり、新開は思想上のラディカリズムを「過激犯罪」として一括するに至っている。私達はこの事件を公然たるファシズムの強権行動の一環と見なさざるをえない。弾圧の口実を今はワイセツにおき次に非国民としあげた過去の軍国主義の手口と全く同じである。従って、私達は作るものと見るものとを問わず、官憲の好まざる一連の表現、個々の表現をーまとめに扼殺するための公然たる行動に対し、すべての人々の感性と行動と表現の自由の名において、これを糾弾し、事件を白紙にかえし、その非を公然と認めることを要求し、抗議とするものである。
一九七二年二月一九日
右抗議連署人
映画監督 黒木和雄 小川紳介 岩佐寿弥 東陽一 土本典昭
本多丕路警視総監殿
警視視庁中村保安一課長及宮部課長補任との会見
速記録
一九七二年二月一九日 午前一一時二五分
警視庁保安一課 課長室
課長の来るまで宮部保課長代理に対し
土本「私たちは皆映画の監督です。私土本、そして(席順に)小川、東、黒木、岩佐です。今回の日活映画三本の押収に関しまして、私たちはいかなる団体にも属しておりませんですからー黒木は監督協会に所属し、この間、抗議申込みしました会の一員ですがーわれわれは一応一人一人ですので、五人印鑑をもって連名で抗議をしにきました」
別記 抗議書朗読
「ーこういう趣旨です。出来ますれば、これに対する御所見を承りたいと思います。」
課長代理「まあ、私と課長(保安一課)との考えは同じと思いますが、間もなく課長も帰ってくると思わます。私が潜越なことを申上げるのも、亦々同じような説明もナニかと思います。で、お待ち頂きたいと思います」
五分程待つ。課長代理に対し質問ー今迄の抗議の有無を確認。防犯部長あてに日本映画監督協会と日本映画ペンクラブと二つあった。しかし、保安一課に直接は始めてとの答え。課長代理はこの二つの通称名称を正確に記憶していなかった。
中村久男課長帰席、土本再び抗議書を読み上げ所見を求める。
課長「ええ皆さんは表現の自由を脅かすとか、何とかおっしゃいますけど、私は表現の自由を脅かすということは毛頭考えておりません。その前提となるべきものはですね、この映画なら映画を観て、それがワイセツであるかどうかという事を、先ず論議してもらいたい。ただ犯罪と容疑することについて、『言論の自由』をとやかく言われることは私は全然解らない。焦点はもっと前に私はあると考える。貴方がたは、この映画(注、日活映画)を観られたのですか?」
土本「没収されましたから見る機会を失いました」
課長「(言葉つよめて)没収するまえに八日間、八日間も上映されています」
土本「それはぼくたちが日にちを選ぶのは勝手ですから。ただ、こういうのが没収でみられなくなるというーこういう事態について想像することが出来たら、それはもうすぐにでも見ます」
課長「これは、まあいづれ私の方は 『ヮイセツ罪』と判断して捜査となりましたから。これは刑事訴訟法にもとずく操作を始めておる訳です。で、これをワイセツに当るかどうかは、いずれ最終的には裁判でもってですね、明らかになるでしょうーどういう具合に裁判官が判断するのかー念を入れてですね、法規に照らして、これまではワイセツであるとか、この点まではワイセツでないとか。だからもう少し静観してもらわなきゃいかん。末だ裁判もない中に(注、捜査以前の意味か)ワイセツに当るとか当らないという論議だったらまだ別ですよ」
土本「それは言葉を返すようですけれども、映画を観られる状態にしておいて、貴方がたが”見解”を発表して、これはワイセツと思うということなら、われわれはそれを観て反論することも出来るけれども、一切何処でもフィルムを没収してですね、観られなくしておいて、いまのいわれ方は、それは本末転倒も甚だしいと思う」
課長「いや、観る機会はあった訳です。それは」
土本「普通、映画は何ベンでも観られるようになっていますからね、それを予告も警告もなしに没収して『意見があるなら映画を観とけ』とは」
課長「いや私達は予告期間なんて-。私達は犯罪としてやっている訳です。私達は取締る場合にですね、予告をして実行するということは無いんですヨ。例えば、強盗でも殺人でも泥棒でも『お前を捕まえるぞこれから、泥棒をやっちゃいけないぞ』と言っとったんではこれはもう話にならん。こっちは捕えて刑事訴訟法に基づいて事実の真相を明かにしておく、それが私達の仕事です。その泥棒をですね、良いか悪いか論議しないでですね、捕えたのが悪い、捜査することが悪いということは確かに焦点が達うんですよ(余裕たっぷりであった)」
小川「だから、泥棒と今おっしゃいましたけど、泥棒と、その今度の映画と同じだと!」
課長「ええ同じ刑法上の犯罪なんです。刑法に規定されている犯罪なんです。汚職でも賭博でも」
小川「それは承服できないですね」
課長「賭博をやっちゃいけないぞといって捕える。そうじゃないんです。賭博だって嬉んでやっとる訳です。これは、こういうことでも私は現行犯として捕える訳です」
東 「刑法ーあの法律の専門家に向って法律論議をする気持はありませんけど、でも、例えば泥棒だったら泥棒をやっているという厳として証拠があるでしょう。ワイセツ物という場合は、ワイセツという根拠をどこに求めるかはアイマイを訳でしょ、つまりー」
課長「(かぶせて)私達も、こういう映画であって、これはワイセツに当ると思いますということで、裁判官に令状の発行を求めた訳です。裁判官はそれを認めて令状を出して呉れた訳です」
東 「しかしその場合、貴方のおっしゃった事は『映画を観ていないのに言っても仕様がないじゃないか』といわれましたけれども、その場合貴方がたは先ず最初に映画を奪ってしまう訳でしょ、押えてしまう訳でしょ(課長「ええそうですよ」)そうすると、押えておいて観なきゃ話にならんと言うのは」
課長「いや我々は観ておるし、他の人達も観たからなんですよ、貴方がたは観ないにしても(東 「いやそれは、そうとは」)一般大衆は見ておる!私の方は調書を取ってある訳です、観た人の。その証拠によって裁判官に令状を請求した訳です」
課長代理「(ポソポソと)その刑事訴訟法の手続という事を説明しないとそれはー一般的な論議はそれは何時までたっても。刑事訴訟法に基づく犯罪捜査というー」
課長「だから、我々は貴方がたの言う弾圧なんか毛頭していない。弾圧だというのなら人権擁護局に行くなり、何処でも行って訴えたら如何でしょうーわれわれが弾圧したという事実があるかどうか」
東 「いや人権擁護局に訴えるかどうかは僕等の判断でやりますけども、今、とりあえずは、今そのフィルムを僕等の見えをい所に」
課長「(さえ切って)そりゃそうですよ!観せる必要もないしね、貴方がたに。観せることその事がですねー舘の中でもって、押収の手続を経てやっている訳ですからー裁判官の令状で。それを、貴方がたに観せる必要はない。
しかし裁判官は公判の過程において、参考人に観せるだろうし、裁判官の権限で鑑定人の意見を聞くだろうし、法律家なりの意見もきいて、公正な裁判をするだろうと私はそれを信じております。日本の裁判そのものを否定-(つっかえて)否定する訳にはいきませんからね。それはもうすべて裁判官の判断にまかせる訳です。」
課長代理「抗議文の中に大分フイルムを『没収』したというようなことを書いてありますけれども」
土本「上映出来ないようにした事は、そのフィルムが何処に存在しょうと、押収と同じ事ではないですか」
課長代理「没収ということはー法律論になりますけど、警察の手で強制的に押えたものが没収-。この映画の場合、警視庁で刑法によって取締った、他のやつ(注、同プリント)も上映すれば刑法に引掛かるということで映画会社が自分で回収したんですからこれは没収と全然違います」
土本「同じじゃないですか」
東 「僕らは刑法の専門家じゃありませんから用語上の間違いは、まあ勘弁して下さい、しかしー」
課長代理「ですから!私達は間違いない法手続に従ってやっているーしかし私達の判断だけじゃなくて、裁判官が了解をして、拘束令状も押収令状も出して呉れてる。貴方がたがいうと-焦点は裁判官に向けられるべきだと私は思うんですけどね」
土本「それじゃ貴方がたは先程観た人の意見も聞いてやったと言われるが、それは何人に対して意見をきき、何人からこれは『犯罪作品だ』ということをお聞きになってやられた訳ですか?」
課長「それは貴方がたに言う必要はありませんよ、それは捜査上の秘密ですから」
土本「それは根拠ですからね、貴方はそれを根拠にしてと言われた」
課長「根拠ばかりじゃなく、本件の証人としてやっただけで、あくまでこっちの判断でやったんです」
土本「そうすると、貴方の判断はすべてに優先する訳ですね?映倫とか一切の国民の判断ではなく、あなたの判断でしたとー」
課長「いや!そのあと裁判官に判断を求めている訳です」
土本「しかし、この法的措置を発動する貴方の根拠は、つまり自分が一番こういう事を判断するのに一番適当であるとー映倫ではなく貴方だと!」
課長「いや、映倫そのものの審査は私は尊重していますよ」
土本「尊重したら、こういう事にはならないじゃないですか」
課長「尊重はしておるけれども、ああいう物を何故許可したか、明らかにワイセツに当るんではないか、私はそう判断した」
土本「だから今回の時点ではっきりしている事は、映倫も共犯という風に……」
課長「それは分りませんよ!これからの調べ方によってこれが犯罪となれば、これを手助けした映倫は、同時に責任を負うかどうかというのは、これは検察官、裁判官がまた決めることです、後で。これは明らかに共犯だと思えば、検察官は起訴すべきでしょう。共犯請求をするでしょう。またこれが犯罪とすれば、裁判所は有罪の判決をすべきでしょう。これは今後の検察官、裁判官の判断に待たなければならないー」
土本「私たちは法律の細かい手続は分りません」
課長「私は判定出来る人間じゃありませんから、裁判官の令状を求めてやっておる訳です。そうでなければ、私の独裁的な政治になっちゃうんじゃないですか?私が自分で判断して私が刑罰則を書いたなんていうと」
土本「当然そんな事は分り切っています。けど、今整理しますと、貴方のおっしゃるのは、私達が映画を観てないで物を言っているということに対して、私達は没収されたから物が観れないという(課長「ええ!今の段階では観れない」)今までのことで、観た人たちの根拠、基準は明らかに出来ないとー」
課長「そんなこと!今の捜査の段階で、皆さんに言わなければならない義務もなければ捜査の秘密もあります」
土本「その事は子供でも分っていますからアレですけど、貴方が映倫の考え方に抗らって、貴方の『判断』が始まったから、それから引つづいて裁判官の何のと出て来る訳です。貴方が最初に緒動を起したんですね?その根拠は何ですか?」
課長「ワイセツと認めるからです」
土本「その根拠は?」
課長「刑法がワイセツと認めたからですよ」
土本「それで人が殺されも、傷つけられもしていないーたかだか映画じゃないですか」
課長「それでも刑法はですね、規定している」
土本「刑法は、そんな風なものを規定していないと思うんです」
課長「規定しております!」
土本「それは法文の解釈は貴方がたが出来る立場にありますからね。ただ、皆がやっぱり充分考えて物を作り、映倫もそれを認めて一般の映画館で上映していたものを、観れないようにして、しかも犯罪に仕立てていくと-、しかも三本一括してやるとーこれは明らかにファシズムだとー」
課長「(失笑を禁じ得ずといった風)そりゃそんなフフフ」
小川「そりゃ、本当にそう思いますね」
課長代理「いや、映画を観せなくしといてというのは……」
課長「私はもう少し(注、映倫の)管理委員さんがよく自分で観て判断をしてやってくれれば、こんなことはないと私は思う。ところが管理委員さんは全然観ていない!」
土本「観ないで審査しているという訳ですか?」
課長「そうでしょ『自分は観ていない』っていいます、私に。(思わせぶりに)池田さん(注、池田義信委員のことか)も観ていない」
土本「一人もみたものが居ないというのは事実ですね?」
課長「(黙ってうなずく)」
東 「映倫審査委員が一人も観ていないということですか?」
課長「管理委員さんー」
東 「つまり担当者は観ている訳でしょ」
課長「管理委員さんは観ていない」
東 「いえ、従って映倫の機構としては問題ないでしょ。つまり、すべての映画を『管理委員』が観なければならないという根拠は何処にもない」
課長「それは分らない! 自主規制機関ですからね。少くとも、映倫の管理委員会というものは、あるんですから-。ただ下っぱだけに観せてですね『俺は観ないんだ』ということでは充分な機能は果せをいじゃないかと、管理委員会の『存在』というものはもう無いんじゃないか?と」
東 「しかし、それは映倫自身が判断すべき事であって警視庁が判断すべき事じゃないでしょう」
課長「(アイマイに)ええ。少くとも管理委員会というものがあるのですから……」
土本「下っばというのは聞き捨てならないですね、下っばというのは」
課長「(狼狽気味に)いや審査員は下にいて、管理委員が上に乗っかっている訳です」
土本「そりゃ映倫の事はよく分わりせんけど、下っばの者が観たから俺たちは許さんとおっしゃるんですか、貴方は上っばですか?」
課長「いや、自分たちが自ら審査をして欲しいという意味で……三人や四人の管理委員さんが居る訳ですから。高橋誠一郎さん(注、映倫委員長が審査OKを出す時に、下の者からこういう報告が来たので了承しました-とこう言うんです。私が観てしました訳ではない-と。だから何人かが良ければ、私は許すんですーと言う。そう言う事について言っている訳です」
東 「そうすると、貴方は映倫の現実に行われている具体的方法は信頼できないとー管理委員がそれを観なければ、信頼できないという風に警視庁の立場からおっしゃる訳ですね?」
課長「いや、今度の映画に限って、何故見てくれなかったと言っているんです」
東 「そうすると、映倫の機構に対して、やっぱり干渉されている訳ですね?」
課長「干渉ではない! 私は観ろという事は言っていない。何故見て呉れなかったんですかと、こう言っているんです」
土本「ともかくこれは、貴方がいみじくも言われたように、観て判断するという機会失われたことが、先ず第一に根本的にー多くの人たちと観て、これがいわゆる「犯罪の映画」であるかどうかを観る機会が失われているという、こういう初源的な情況に対して…」
課長「八日間も観せたんですよ。それを観せないなんて論にならんですよ」
土本「じゃ何故言うんですか『観てから物を言え』と。じゃ観せて下さい。これから、ここで」
課長「そりゃ無茶なー。……観なけりゃねえ」
土本「観なくても言えます」
課長「実態を観ないでおいてですね、ただ取締りがどうこうと言うのは、私はかなわない」
土本「いや、映画一般の事は知っていますからね。映画に表現したものを、貴方がたが押収して犯罪作品にするーと。しかも三本ひとまとめにして…」
課長「失礼ですがチャタレー夫人の判決を御存知ですか」
土本「そりゃいろいろ資料はここに持っています」
課長「裁判所はこれをワイセツだと判断しておりますね?」
土本「そりゃ色んな判例は出ると思いますけどね」
課長補佐「何か他にまだありますか?課長は時間が余りありませんので……」
土本「一応ですね、やっぱり白紙にもどすことを要求します。それで起訴とか、そういうことは取りやめてほしい」
課長「白紙にもどすということはどういう事ですか」
土本「ともかく、フィルムは元通りに上映できるようにして、一切の取調べを現在やめて頂いて」
課長「そんを無茶な事を言ってもらっちゃ。こっちは法律に基づいて仕事をしているんであって」
土本「いや『法』は使い手の問題ですから」
課長「法は使い手なんて!そんなんなら決められた手続なんて。貴方がたは自ら法を破れと言うんですか?」
土本「じゃ治安維持法ですねー現在、戦前の治安維持法が今、もし敷かれたとしたら、今、貴方はやりますか? また」
課長「(間髪をいれず)法があれば仕方がないでしょう。ー国会という最高権威が決めたことでしょ」
土本「そうですか。じゃ戦前の治安維持法がまた出来れば、これは又やるーとおっしゃるんですか」
課長「そりゃそうでしょう」
土本「思想犯を死刑にすることも、法律が出来れば貴方は又やるわけですか」
課長「われわれは法律の執行者ですよ」
土本「知ってますよ。貴方はーそりゃそんなもの辞めたらいいじゃないですか」
課長「私たちは法律の執行者なんでしてねえ。それをやらなければ存在価値がない訳です。泥棒でも強盗でも捕まえないようにしろって言ったって仕様がないでしょ」
小川「そんなこと言っってない!」
課長「いや理論は同じなんだ」
小川「僕はそういう事だった場合には、やっぱり闘わなきゃ仕様がないですね、貴方がたに対してみんなと連帯して、それだけははっきり言っときます(課長「いいですよ」)ええ、闘います、ええ」
課長「誰が法律の忠実な執行者であるかー法律の執行者が職務を執行しなけりゃ仕様がないですよ。国が乱れてしまう。皆さんの選良であると国会議員さんが決めた法律をやはり執行しなけりゃイカン。法を執行しなくても良いという事は何時かは民主主義を破壊するもんです」
黒木「一般論としても全然意見が対立する訳ですけれども、事、ワイセツ罪に関する限り、法の執行者である貴方の心証は全然間違っているー明らかに間違っているということを、はっきり異議申立てしている訳です」
課長「だからそれは裁判の時見て下さい。どっちが間違っているか」
黒木・他「闘っていこうよ」
課長「え?」
小川「ぼくたちはそれに対して闘っていこうよ」
土本「私達は自分たちが映画を作っている人間ですから決して他人事の話じゃない訳です。だからわれわれは抗議し、闘います」
一同「それをはっきりしときます」
課長「今抗議しても仕様がないよ」
(録音・岩佐寿弥 採録・土本典昭)