『あすへの記録ー水銀とネズミ…水俣病への提言…』
NHK制作、1971年 6月16日放映
1、水俣その袋湾の風景。
N「水俣病は現在、認定患者 134人、死亡者48人、死亡率は35%。この死亡率は腸チフス、ペストを上回り、しかも有効な治療法はない。発生以来20年になる」
2、患者多発地帯を歩く原田正純熊本大講師ほか2名。
N「自主検診に行く原田講師たち」
「事件発生後、住民への一斉検診は一回も行われていない」
3、在宅潜在患者を診ている原田講師。
N「一見、健康に見える人に、異常はないのか」
数人の潜在患者を前に症状の聞き取りをしている。手足に痺れ、猫の発症など。
4、学用フィルム。狂っている猫。
不知火海の地図に水俣病猫の発生図。
N「猫の発症は対岸の天草にまで及んでいる」
N「昭和35年に行われた毛髪水銀調査によれば、検査対象者の85%以上に10ppm以上の水銀値…最高 920ppmが検出されている」
水俣、湯の児の海。
5、熊本大学医学部の実験室。ネズミ(マウス)のゲージの並んだ棚。
宮川太平講師と研究生ら。
N「ここではネズミを使った、有機水銀中毒実験を進めていた。実験の目的はネズミの体内に入った有機水銀の行方を調べること」
ネズミの体重を計る。餌に極微量の粉末有機水銀を与える。餌を乳鉢で混ぜる。
N「ネズミは体重 100~ 120gの若い雄が使われた。与える水銀は1日1mg、餌に混ぜて与えられた」
6、学用フィルム。水を飲む手が痙攣している、そのシェルエット。
N「水俣病はまず手足や口のまわりの痺れから始まる。やがて視野狭窄、難聴、言語障害を見せ、さらに重い症状へと進んでいく」
N「今の病理学では死んだ時の病理は分かっても、その初期の病理は分からなかった。症状が脳中枢をやられたものか、単に末梢神経のみやられたものか分からなかった」
7、ふたたび実験室
卓上に、18日目発症したネズミと対照の健康なネズミ。発症ネズミの後脚がダメージ。それぞれを尻尾を持ってぶらさげると、中毒ネズミの後脚は動かない。
目方を計る。
N「スタートは 110gだったが、発症ネズミは90g、健康なネズミは138g。」
N「18日にしてネズミは典型的な発症を示している」
8、グラフ『ラットの平均体重曲線』
N「水銀を与えて11日目、立毛。18日目、完全に発症する」
9、ネズミの解剖。
N「心臓を生かしたまま固定液を注射して細胞を固定し、顕微鏡で組織を見る」
10、顕微鏡下の細胞のアップ-1
N「これは水銀を与えてから4日目の末梢神経のひとつ坐骨神経の横断面である。4日目では異常は見られない」
細胞のアップ-2。
N「8日目、症状が現れた。坐骨神経だけではなく、他の神経繊維にも病変が現れている。神経繊維の外側の細胞が膨れている」
12日目の細胞のアップ。
N「12日目の神経繊維の形は不規則になり、黒くなっているのが見られる」
N「坐骨神経だけではなく上腕(?)神経、顔面をつかさどる三叉神経、聴覚をつかさどる聴神経も同時に侵されている」
三叉神経のアップ。
N「この時期では小脳、大脳の病変は認められない。つまり中枢神経より末梢神経の方が先にやられているのである」
20日目の神経のアップ。
N「坐骨神経だけではなくあらゆる神経繊維がやられていた。この時になってはじめて小脳、大脳にも病変が現れ始めた。大脳の後ろ側にある視中枢領域、つまり、網膜に写った物体を知覚する部分も破壊され始めている」
小脳の夥粒細胞のアップ。
N「神経繊維は中枢の核だけ残して、まわりの胞体があちこちで消えていた」
11、顕微鏡を見る宮川講師。
N「神経繊維が構造的にどのように破壊されているのか、もはや光学顕微鏡では知ることができない」
12、ミクロの切片作り。
N「これは電子顕微鏡でみるための切片作りである。3万分の1の薄さの切片」
極微の道具。
N「幅 0,5mm、厚さ3万分mmの切片。これを掬う直径2mmの網、 150個の穴が空いている。この切片に酢酸ウラン、酢酸鉛で染色、電子顕微鏡で見る」
13、電子顕微鏡下の世界。
宮川「神経繊維は正常の場合、丸い髄鞘が電線のコードのようにある。病変の場合、髄鞘が破壊され、中の軸索も小さくなっている。さらに進むと潰れて、黒くなる」
14、小脳の標本写真。
N「小脳の夥粒細胞…細胞の核は萎縮し、脱落している。これまでの実験で有機水銀は、脳中枢より先に末梢神経を侵すことが分かった」
15、ネズミの背骨の解剖。脊髄から伸びる2本の神経繊維。
N「下から知覚繊維、上から運動繊維が伸び、一本の末梢神経をつくる」
その末梢神経の切断面写真。
N「運動神経はほとんど侵されていないのに、知覚神経はまったく元の形をとどめていない。有機水銀は末梢神経の知覚神経から侵しはじめる」
16、ふたたび原田講師の検診風景。男性患者。
N「知覚神経の障害を訴えるこの人はなんども船から海に落ちていた」
片足立ちテスト、ついで痛みによる知覚テスト。手足の末端が痺れている。
17、水俣の海辺。
N「これまでに診た人の数 120人、その80%に異常を発見…」
原田「ランダムに訪ねて調べてみても、軽い知覚障害は取り出せるのではないか」
「ひどい人は手足の震え、言葉のもつれ、難聴、視野狭窄が見付かる。この多発地帯では、同じ魚を食べているんだし、水俣病と無縁で有り得ない」
18、ふたたび実験室。
N「実験に使ったネズミは 184匹。有機水銀投与を止めて 250日生かした後も、知覚神経は回復していない。知覚神経は直りにくいということだ」
N「水銀の量を3分の1にすると、3倍の日数で同じ症状に達することが分かった。宮川講師はネズミとヒトとは違うが、有機水銀の量が一定より少なければ、最初に手足の痺れや口の周辺の痺れを訴えなど知覚麻痺だけを訴える」
原田「知覚麻痺だけを訴える人も病理学的に有機水銀中毒といえるのではないか」
N「重症患者を氷山の一角に例えるならば、水面下にあるその実態を明らかにしてこそ隠された水俣病はその全貌を明らかにするのではないか」
19、立津教授インタビュー「有機水銀中毒は世界的問題になっている。北欧でもアメリカでも問題になってきたし、海洋の魚も汚染されてきたし、非常に関心を呼んでいる。日本ほど、身近かな問題で、重い症状から軽い症状まで見られるのだから、日本人が解明するのは国際的義務だ」
20、痺れる口周辺の診察。
N「新潟水俣病の場合、40年と54年の2回にわたって実態を明らかにしようとする努力がなされてきた。だが水俣ではまだ行われていない。しかもその汚染の範囲ははるかに広い」
21、水俣市の景観。
N「人類史上、はじめての濃厚かつ広範な有機水銀汚染の実態は、この水俣だけでしか知ることが出来ない問題である」