書籍「ドキュメンタリー映画の現場」 はじめに シグロ代表 山上徹二郎 <1989年(平1)>
 書籍「ドキュメンタリー映画の現場」 はじめに シグロ代表 山上徹二郎

 はじめに

 「土本典昭フィルモグラフィ展」(スタジオ200・シグロ共催)を開催したのは二年前である。
 一九八七年一月二十三日から二十八日までの前期講座と、二月六日から十一日までの後期講座合わせて十二日間の催しだった。その間、十七本の土本典昭監督の代表作の連続上映と、十三人の映画関係者の方々にドキュメンタリー映画についてさまざまな角度から語っていただいた。
 この本に掲載した文章は、その「土本典昭フィルモグラフィ展」での講義の中から再録したものである。
 当時のパンフレットに「日本を代表するドキュメンタリー作家、土本典昭氏の作品により、戦後日本のドキュメンタリーの歴史を遡り、記録映画の明日を探る」とある。土本作品の製作年次を時間軸に、その折々に交差した”映画人”たちの語り=証言によって、日本のドキュメンタリー映画の現在地を確かめてみたいという試みだった。また、この企画を、現在映画をやっている人たち、これから映画をやりたいと思っている若い世代の人たちへの、”メッセージフォーラム”にしたかった。
 講師には、主に映画の製作現場のスタッフを中心に選任した。製作プロデューサー、演出家、キヤメラマン、録音技師、映画音楽の各パートと、映画評論家といった人たちである。初日に、蓮實重彦氏に「土本典昭とドキュメンタリー映画」のテーマで包括的な話をしていただき、その他の講師の方々には、敢えてドキュメンタリー映画の製作現場からの実践的な話をお願いした。
 ドキュメンタリー映画は現場が生命である。編集も、ドキュメンタリーの場合その現場の延長であるといえる。予め書きおろされたシナリオはない。日々撮影されてゆくカットがプロットとなり、対象に感応する現場スタッフの精神が、シナリオを創り上げてゆく。現場には、常に対象との葛藤があり、スタッフ内の議論がある。
 撮る対象に対して映画が非日常であるように、ロケーションの現場ではスタッフもまた非日常の現実を共有している。その現場での、各々職責をかけたスタッフ間の、時に熾烈な議論が強固な協働性を育み、作品を鍛え上げてゆく。ドキュメンタリー映画作りの醍醐味がそこにある。まさに土本監督のいう「映画は生きものの仕事」なのである。
 土本典昭監督は、昨年一九八八年、内戦の続くアフガニスタンで六カ月間の長期ロケを敢行し、日本アフガニスタン合作長編記録映画『よみがえれカレーズ』を完成させた。テレビではなく、劇映画でもなく、日本のドキュメンタリー映画の世界に、次々と若い”映画人”たちが登場してくる日を予感したい。そうした未来のドキュメンタリー映画の現場スタッフたちに、まずこの本を手渡したいと思う。

 一九八九年五月

 シグロ代表 山上徹二郎